尾上はもう夜の9時になろうとする時間に、大学病院の一室に電話で呼ばれた。

疲れがたまった目をこすりながら診察室を出ると、薄暗い不気味な病練の廊下を歩き続けた。


しばらくして足をとめると、自分の所属するゼミの教授、北村の研究室の扉を開けた。


「失礼いたします。」

「入りたまえ。」

分厚い書籍の山にうずもれてデスクに座る北村は、その険しい眉間に深い皺を浮かべながらそう促した。

その言葉に、尾上は遠慮がちに反論した。


「あの、お言葉ですが…、外では夜を徹して治療を待つ人たちが…。」

「かけたまえ。」

必死に抗弁する尾上を無視するかのように、北村はきっぱりとそう促した。


その言葉に観念したのか、尾上はしぶしぶ北村の座るデスクの前に置かれたソファに腰を下ろした。