亜季はきつく靴紐を結ぶと、立ち上がって店のガラス戸に手をかけた。


「亜季。」

伯父の声に、亜季は振り向いた。


「気を強くな。」

「うん。」

亜季はそう言ってほころぶような笑みを浮かべると、ガラス戸を押して出て行った。

夏の熱い雨が降る中を走っていくその後姿を、店のウインドー越しに、伯父はいつまでも見つめていた。


人の死を受け入れるには、気持ちが強くなければいけない。

南の島で消えていった、あの戦友たちの姿が頭に浮かび、伯父は思わず両目を閉じた。