亜季は思いがけないテツオの言葉に、じっとその顔を見つめた。

「まだ左手がついている。この金網が撤去されたとき、試合に出られるように練習しなきゃ。」

そう言ってにこりと笑うテツオの顔を見て、亜季は思わず口を両手でふさいで、その両目からは大粒の涙が溢れ出た。


片手を失いながら、この人は自分明るく振る舞ってくれる。

今にも崩れそうな私のために、辛い素振りは何も見せない。

苦しいのは、この人なのに。



亜季はテツオのことが、この上もなくいとおしく感じた。

しかしこんな時だというのに、まだ素直になれない自分がいた。


思えば、このとき好きと言えばよかった。