亜季は目を覚ました。

金網に身を預けてまま寝てしまった亜季は、ぼうっと右手に巻いた腕時計を見た。


時間はもう正午を回っている。


亜季ははっとして慌てて立ち上がり振り向いたが、金網の向こうにはもう人影はなかった。

大きく息を吸った亜季は、もう一度体を向きなおすと、再び金網に身を預けて腰を下ろす。


金網の向こうにばかり気を取られていた亜季は、この時初めて自分が丘の上にいることに気がついた。

夏の熱い風が吹き抜けるこの丘の上からは、広大な緑の田畑に囲まれた集落が見渡せる。


隔離地域に近いこの村人の中には、すぐ傍に出来たこの金網によって、離れ離れになってしまった家族も数多くいるであろう。

例年ならこの時期、各家庭には盆の準備をする、平和な笑顔が溢れていたはずだ。


しかしそのような穏やかな時間を過ごすはずであったこの村に、たった一発のミサイルが絶望の炎を連れてやってきた。

恐らく遠巻きには平和に見えるこの家々の多くは、今までと同じ盆など訪れてやいないであろう。