アイビーは私を放さない

周りがザワザワと騒然としているため、何が起きているのか全くわからない。ただ私の隣にいるアルバートさんは鼻の辺りに手を置き、「これは……」と呟いている。そこでようやく何が起こったのか大声で叫ぶ人のおかげで知った。

「オメガがヒートを起こして倒れたぞ！！そのオメガをアルファが襲おうとした！！」

その言葉に幸せだった心が一瞬にして凍り付く。指先が小さく震え始め、呼吸が荒くなっていくのがわかった。神様は意地悪だ。こんな時くらい最後までオメガのことを忘れさせてくれたらいいのに……。

周りの話す言葉が怖い。周りの視線が怖い。みんなが私の心を覗き込んで、私が隠しているオメガを知ってしまうんじゃないかとありもしないことを想像してしまう。その時だった。

「大丈夫ですよ。ほら、息をゆっくり吐いて」

私の肩にアルバートさんの手が優しく乗せられる。そのままアルバートさんに合わせて呼吸を繰り返した。ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐く、繰り返すうちに少しずつ落ち着いてきた。