「私、婚約を解消するわ。この婚約は政略ではないから許してもらえると思うの。両親には今夜にでも話してみるわ」
「そう……でも、そうね。話すなら早いほうがいいわよね。ルイーズのご両親なら、許してくれるとは思うけど、お相手との話し合いが難航しそうなときは教えてね。私にできることはないかもしれないけど、役に立てることはあると思うの」
「ありがとう」
ルイーズは、頷くエリーに微笑み返すと窓の外を眺めた。
静かな時間が過ぎたころ、顔を引き締めたエリーがルイーズに話し掛けた。
「——こんな時にする話ではないんだけど……どうしても話しておきたいことがあるの」
窓の外を眺めていたルイーズは、エリーに顔を向けた。
「私、半年後の進級に合わせて、淑女科から侍女科に転科するわ」
「…………」
エリーは固まるルイーズをよそに話を続けた。
「私は、これからも婚約をすることはないと思う。だから、侍女科で将来の仕事につながる学びがしたいと、以前から両親に伝えていたの。それが、最近になってようやく、侍女科への転科を許してもらえたの。面談はこれからだけど……。私、侍女科へ移ることになると思うわ」
いつもは冷静なエリーだが、熱のこもった決意を語ってきた。
ルイーズは、いつにない様子の親友を静かに見つめた。
いつも見守り、寄り添うように傍にいてくれるエリー。普段は相手の気持ちを第一に考え、このように唐突な発言をすることはない。
しかし、そんな様子にも気付かないほど、ルイーズ自身も動揺している。
エリーから決意を打ち明けられたルイーズは、困惑から、思わず黙り込んだ。どうやら先ほどの光景も、すっかり頭から消えてしまったようだ。
幼馴染であり大切な親友。これまで二人は、いつも一緒に過ごしてきた。
幼い頃から共に遊び、成長してからは同じ学校に通い始めた。これからも、そんな平和な時間を一緒に過ごせると、当然のように思っていた。
ルイーズは、平穏な日々が当たり前すぎて考えもしなかった。そして、そんな自分に少しだけがっかりした。
(私は、エリーが考えていたことにも気づかなかった——)
