Honey Trap




「ありがとう、美千香。助かるわ」


カチャリ、とリビングの扉が開くとクレンジングまで済ませ、完全にオフモードになったママが入ってきた。


「課題があって大変でしょうにごめんね、家事させちゃって……」

「何言ってるの?ママだって仕事頑張ってくれてるんだから、家のことはできる人がやればいいんだよ」

「……どうやったらこんな立派な子に育ったのかしらね」

「やめてよ。普通でしょ?」


親ばかのごとく、我が子を称賛するママに苦笑しながら答える。

ママも困ったような、誇らしいような、複雑な表情をしていた。


……そんな私の心中は至って冷静。


パパとママには悪いけど、私は良い子でもなんでもない。

周りに浮かない程度に、無難な子供を演じているだけ。

どう行動し発言するのが適当なのか、常に打算で考えて動いている。


むしろ、今は世間には絶対に言えないことをしているわけだけど。


もしパパとママにこのことがばれても、2人に何の罪悪感も感じないかもしれない。

それくらい、私は冷たい人間なのだ。