第一章

突然、知らない声が

「お姉様、起きてください」



目を開くと丸顔、シヨートへアー違うおかつぱ頭の女の子がいる。

その背後に透き通る青い空が広がっている。


「あなたは誰?」

「え、大丈夫ですか、私は......」

女の子の顔が左右に揺れる。

「結奈、沖縄が見えるぞ」

「痛つ、頭を叩くなよ」

隣席の悪友立木燈亜に起こされる。

口を開けて寝てたわ

2つ隣席の月影祈理が指摘する。

ムッとしたが直ぐに
右側の旅客機の小窓をのぞき込む。

眼下はまっ青な海が広がり

遠くに陸地が浮かんでいる。


やっと来た。

チョーヤバイ!

「沖縄、沖縄、南国、南国、ルン、ルン」 

嬉しさ爆発、両手でこぶしをにぎり上半身で

フリフリダンス。

待ちに待った高校の沖縄修学旅行。

私、緋璃瀬結奈は上機嫌ダンスの真っ最中。

踊りが止まらない。


「結奈(ゆな)、見てる方が恥ずかしいから止めて~」
 
隣席で止めにはいる月影祈理。

そんなこと
言わないで祈理もフリ、フリしよう

「浮かれすぎ、こっちが恥ずかしいわ!」

「いいじゃない初飛行機、初沖縄なんだから」

「私も沖縄は初めて」

「なんだ~それなら一緒に楽しもう」

「ハイ、ハイ楽しみ、楽しみ」

「氷の反応は寒い」

「結奈は特注」

そう返しますか!

ひとまず祈理は置いといて。

また窓に視線を向ける。

「わあ~」

祈理の肩を叩きながら

 「ねぇ、沖縄が見えてきたよ」

だから、教えたよ
 



 「もう、張り合いが無いな」

 「結奈がはしゃぎすぎなの」


 そんな祈理を無視して鼻歌を奏でる

「ふんふん」



しばらくすると
 
「シートベルトを装着してください」

機内アナウンスが流れる。
 


「早く、早く、着陸、着陸」

眼下に沖縄がどんどん近づいてくる。

飛行機が着陸。

「ドン」

「キャ」

お尻に衝撃を受けて声が出る。

飛行機窓の外は別世界。

ついに念願の沖縄に到着した。

那覇空港内を制服姿の女子生徒が連なつて騒がしく移動する。



ふと、壁に掲げられてる、大型モニターが目にはいる。

アナウンサーが。

「今日は摩文仁平和公園で執り行われる沖縄戦全戦没者追悼式の模様を放送します」

会場の壇上に同い年くらい男子学生が上がる。


「高校生の部、平和の詩、題名は祈りを朗読」

学生がマイク前に立つ。

大声が響く。

「この沖縄戦争は会ったことも名前さえも知らない人間が引き起した。


この戦いで沖縄県民のお母さん、お父さんおじいさちゃんばあちゃんそして同年代少年少女が沢山散っていった

泣き叫ぶ赤ちゃんが邪魔だと罵られ

無理矢理我が子を殺した母親がいた

戦争がいかに悲惨で残酷かを知ってほしい

そして平和がどれだけ大切で尊く儚いかを

知ってほしい

心の底から平和を願う

僕はこの大切な思いを皆んなに届かなくても伝える続ける

誰が何と言おうと

これからも命を賭けて平和を祈り続ける」


怖いほど真っ直ぐな言葉に圧倒される。

祈理の手を掴み

「お母さんが自分の赤ちゃんを殺したのって本当なの!」

「どうなのかしら、教科書に掲載してない筈」

そうなんだ、どっちが本当なの

困り顔で祈理が首を捻った時、不意に後から

あ、あのう結奈さんこれを落としたよ

うつ向いたまま差し出す良子の手にリップが

握られてた。


私のだ。

ありがとう

飛行場の床を向いたまま

小さい声で

そんな事無いです


言葉を残して立ち去っていく

暗いなあ

だからぼつち

あちらこちらに警官が立つていた。

物々しい雰囲気が漂っている。

近くの引率の担任に

「杉平先生〜警察官だらけですけど事件とかあったのかな?」

「結奈、今日6月23日は日米沖縄戦で組織的戦闘が終了した慰霊の日だ」

「その式典に日本の総理が出席するから厳重警備しているんだ」

「沖縄で戦争があったんですか?」

「お前な〜日本史勉強してないのか!」

「沖縄は太平洋戦争で唯一、地上戦が行われた場所だ憶えとけ」
 
「は~い、覚えておきます」

「ペシッ」

痛っ

祈理の平手が頭を軽くたたかれる。

「結那、太平洋戦争の常識よ」

「え~そうなのでも頭叩くはパワハラ!」
 
(ふ~ん沖縄は戦場になったんだ。)

「叩かれて思い出した、たしか教科書には少ししか載ってないよね?」

切り返す。

祈理は少し困り顔になり

「ま、たしかに詳しい文章は載ってないわ」


「へへ、じゃ、覚えてないのも仕方ないね!」

「もう、言い訳だけは上手いわね」

実は賢いの。
祈理は
プッ
苦笑する。

駐車場に待機している観光バスに乗り込む。

バスは那覇の町中を抜け海沿いの道を走る。

シ−トに深々と背中をもたれて青い海を眺めていると


一番後ろ席から騒がしい声がする。

振り向くと

馬織のぶ子とそのグル-プに挟まれた良子の困り顔が。


「ねえ~良子、ホテルに着いたらその後私達と班行動しようね」

「そ、それは困まります、他の人と予定があり
ます」

「え~ぼっちで根暗な良子が他の子と予定があるわけないじゃん」

「誰なの、教えてよ」

鋭く、のぶ子が突っ込む。

言いどよむ良子

「そ、それは..」

「本当はいないでしょう、嘘はダメよ!」


「本当ねクスッ、クスッ」

取り巻き達の笑い声がバスに響く。

「あ!」

困り顔した良子と目が合い、咄嗟に顔を背ける

バツが悪い、こっちを見ないでよ!

祈理が
「迷惑グル-プに捕まって可哀そう」


「そうだね、でも嫌ならはっきり言えばいいのに」

「それが言えないのよ」

「だらしないなあ」

「皆が皆、結奈みたいな性格じゃないの気が弱い子もいるの」

「そうゆうもん?」

良子を軽蔑してしまう。

1時間半後、ホテル前の駐車場に到着。

背伸びや肩を回しながらクラスの皆が下車する。

「ふぅ~バス移動、長かったね」
 
 ジャンプしてバスを降りる。
 
後ろから
 
祈理が腰を押さえながら降りてくる。

 「イタタ、腰が痛い」
 
 「大丈夫?まだ、10代よ」

苦笑いになる祈理。

マジ辛いのね。

「後でマッサージしてあげる」

笑顔になり

「ありがとう」

「どういたしまして」

並んで歩くと

「2年B組、集合」

ホテルの前で杉平先生が呼ぶ。
 
クラスのみんなが集まると

「ここが宿泊するホテルだ」

見上げるくらい大きな

白い外壁の豪華なリゾートホテルに圧倒される


期待に胸を膨らませてホテルに入る。

白い大理石で作らたロビー、その先に大きなガラス張りで、その先は見えるのは白いビーチと青い海。

その景色に心奪われ、思わず走る
 
「結奈、走っちゃダメ」

祈理の声を聞き流す。

「あ!」

ロビ-の床絨毯につま先が引っかかる


身体が前のめり状態で宙を舞う

あ、ヤバイ

大理石の床が迫ってくる。
「ドン!」

鈍い衝が響いて

意識が消えて行く。

・・・・・