「やめて!離して!」
「何でだよ。お前、まだ俺のこと好きだろ?迎えに来てやったんだよ?」
わたしの腕を無理に引っ張り、自分勝手なことを言う瑛太。
確かにフラレたばかりのときは未練があった。
でも、今は綺麗サッパリ未練なんてものは無くなっていたのだ。
瑛太が「ほら、帰ろう?」と抵抗するわたしの腕を引っ張っていると、わたしのすぐ側に黒い人影が現れ、瑛太の腕を掴んだ。
見上げてみると、それは黒いコートを着た和総さんだった。
「嫌がってるじゃないか。離してあげなさい。」
冷静にそう言う和総さんに、「お前、誰だよ。関係ねーだろ!」と吠える瑛太。
「関係なくは無いんだよ。エレナは、僕の大事な人だからね。君、もしかして、エレナの元恋人かな?」
"僕の大事な人"?
わたしは和総さんの言葉にドキッとした。
「自分勝手な理由で別れておいて、こんな無理矢理連れて帰ろうとするなんて、男として情けないな。君にエレナは渡さないよ。」
和総さんの冷静で静かな圧力に瑛太は悔しそうに手を離した。
そして瑛太は、最後に「何だよ、もう新しい男作りやがって。」と捨て台詞を吐くと、ジャンパーのポケットに手を突っ込み去って行った。
その後ろ姿を見て、わたしは、わたしってあんなカッコ悪い男と付き合ってたんだ、と自分の男の見る目の無さを恥じるのだった。
「大丈夫だった?」
さっきの冷たい雰囲気とは打って変わって、いつもの優しい和総さんに戻り、わたしを心配してくれる。
「大丈夫です。ありがとうございました。」
わたしがそう言うと、和総さんは優しく微笑み、「じゃあ、家に入ろうか。」とわたしの背中に手を添え、一緒にエントランスの中へと入って行った。



