今夜の月は眠らない。


「野田部長いる?」
「あー、部長なら今外出してますね。」
「そっか、それならこれ野田部長に渡しといてくれる?部長宛の書類なんだ。」

そう言って、和総さんは書類が入った封筒を差し出した。

わたしはそれを受け取ると、「わかりました。でも和総さん、社長さんなのに営業さんみたいなことしてるんですね。」と言った。

「今まで通り、営業の仕事もしてるよ。現場を知らないで上は務まらないからね。」
「大変ですね。社長の仕事もしながら営業もやってて。」
「大したことないよ。じゃあ、野田部長によろしく。エレナも仕事頑張って。」

和総さんはそう言うと、事務所に居た成美ともう一人のパートのおばさんに向けて「それでは、失礼します。」と軽く会釈すると、わたしに向けて小さく手を振り会社を出て行った。

わたしは和総さんから受け取った野田部長宛の書類を野田部長のデスクに置いた。

すると、成美が再び勢い良く「ねぇ!本宮社長のこと、下の名前で呼んでなかった?!」と詰め寄ってきた。

「え、、、まぁ、うん。」
「しかも、エレナって呼ばれてたよね?!めっちゃ仲良い感じだったじゃん!」
「仲良いっていうか、、、。」
「あんなイケメン社長と仲良いなんて羨ましい〜!しかも、聞いた?!社長さんなのに、営業さんの仕事もしてるって!現場を知らないで上は務まらないからって!かっくい〜!!本宮社長の爪の垢を煎じて、うちの社長に飲ませたいくらいだよ!!!」

成美は興奮した様子で口が止まらないようだった。

「しかも、最後わたしにまで会釈してくれて、、、はぁ、かっこいい、、、。」

わたしは成美の興奮具合にクスッと笑うと、自分の業務に戻った。

でも確かに、うちの会社は正直ブラックな会社だ。
成美が言ってたように、うちの社長に和総さんの爪の垢を煎じて飲ませたいのは、わたしも同感だった。