今夜の月は眠らない。


次の日、会社に出勤すると、成美が凄い勢いで「昨日、本宮社長とはどうだったの?!」と問い詰めてきた。

成美が絶対問い詰めてくるだろうということは、予想出来ていた。

「え?どうだったって?」

わたしはそう言うと、冷静を装ってデスクについた。

「ほら、パーティーのときに誘われてたじゃない?!22時頃、お待ちしてます〜とか言われてたでしょ?!行ったの?!」
「うん、まぁ、行ったよ。」
「それでそれで?!」
「猫バスに座って、葡萄ジュース飲んだ。」

わたしの言葉に成美は一瞬固まると、「猫バスに座って葡萄ジュース飲んだ??」と困惑した表情を浮かべた。

「どゆこと?」
「そうゆうこと。さぁ、仕事仕事!」

わたしは成美が根掘り葉掘りと訊いてくる前に話を逸らし、業務を開始した。

成美は納得いかなさそうな表情を浮かべ、「猫バス?葡萄ジュース?」と呟きながら、自分のパソコンへと向かっていた。


そしてその日の午後、来客がやって来た。

「お疲れ様です。」

そう言って会社に入ってきたのは、和総さんだった。

「あ、エレナ。お疲れ。」
「和総さん。どうしたんですか?」

わたしたちがそう話す後ろでは、「エレナ?!和総さん?!」と小声で驚く、成美の声が聞こえてきていた。