シンデレラのないしょ話 ~悪役令嬢だって恋をする~

 はたして、その瞬間(しゅんかん)がやってきた。王子様の馬車(ばしゃ)がお城の門から出てきたのだ。

 と同時に「キャ――――――!!」という親衛隊(しんえいたい)の声があがる。
 
 余りの声量に耳をふさいでいると、王子様の馬車(ばしゃ)が私達のいる方向にまがってきた。
 さらにヒートアップする「キャ――――!!」の声。

 悲鳴(ひめい)を上げながらも、馬車(ばしゃ)に巻きこまれないよう、親衛隊(しんえいたい)の少女達が私のいる後方へと後ずさってくる。
 
 彼女達にとってはそんな風に王子様が見えるよう、そして近付きすぎないように、隊列(たいれつ)を変化させるのは()れているようだったが、私の方は急な事態(じたい)に対応できない。
 
 逃げようとしてあわててスカートの(すそ)をふみ、ころんで鼻をすりむいてしまった。
 うずくまる私を、彼女達は軽やかに()けていく。

 気付くと王子様の馬車(ばしゃ)に対して最前線(アリーナ)で鼻を押さえながら、無様(ぶざま)にはいつくばっていた。