乾杯を終えてから
(正確には、教授への乾杯回り
を終えてから)、
しばらくは各テーブルで
団欒タイムだ。
京子は、このタイミングだと思い
黙々と一人でビールを飲む
雅俊の方を向いて言った。
「あの、聞いてもいいですか」
「…なんだ?」
雅俊は割り箸を割って
半熟卵に切れ込みを入れた。
その態度とは裏腹に
丁寧に卵を割るあたり、
かなりの几帳面とみた。
京子はお守りのように
ジョッキを抱きしめて言った。
「あの雑誌にあった、
牧先生の過去のことなんですけど」
周囲が賑やかでよかった。
対角線の向こうにいる教授たちには
この会話は聞こえていないはず。
それを雅俊も確認したのだろう。
ちらっと教授の方を向いてから、
雅俊は「どうぞ」と言わんばかりに
黙って卵を口に運んだ。



