5時間の手術を終えた後、
閉胸のタイミングで瀧本は手を下した。
そこからはかなり皆の緊張の糸は解け、
室温が少しだけ上がった気がした。
馬場が京子から針糸を受け取りつつ言った。
「さっきの、来週の話ですけど、
うちの医局の飲み会があって。
…いらっしゃいますか?」
「私がですか?」
「はい。たぶんそれに呼べってことかと」
「…」
もちろん、行きたくない。
だが、今回ばかりは行くメリットがある気がした。
牧のことを聞くチャンスかもしれない。
何か聞き出せれば、それをネタにして、
この人たちを追い出して、
そうすれば牧が戻ってこられるはず…
脳内で瞬時にシミュレーションを済ませたうえで、
京子はニコッと微笑んで言った。
「先生方がいいのであれば、ぜひ」
「それはもちろんです!
ありがとうございます!
これで教授に叱られなくて済みます」
京子は「ははは」と愛想笑いを見せつつ、
馬場と高田に同情する気がしないでもなかった。



