牧が息をすっと吸うのと、
京子がもう一度顔を上げる
タイミングが重なった。
気まずくて、また目を背ける。
京子はもう、逃げないと決めていた。
「先生…辞めないですよね?」
京子の言葉に驚いたようだったが、
牧は何も言わなかった。
その反応が、イヤだった。
「私、先生がいいならみんなに言います!
みんな、先生を待ってるんですよ。
スタッフだけじゃなくて、患者さんも」
「これ以上迷惑をかけるわけにはねぇ」
「違う違う!」
京子は子供みたいに首を振った。
「迷惑なはずありません。
みんな先生が必要なんですよ。
だって、だって、先生は多くの人の命を
救ってきたじゃないですか!」
「…きょんちゃん?」
「聞きましたよ。
先生がいなくなって、
消外が回らなくなってきてるって。
診療科閉鎖の可能性もあるって」
「それは大袈裟だよ」
牧は何かを誤魔化すように笑った。
こんな時でも、いつもと同じ笑みを作る。
それが京子は悔しかった。
今の牧は、もはや諦めているようにさえ見えた。
もっと戦ってほしい。
負けないでほしい。
だが、説得することなんて、
無謀なことなのだろうか…。



