君は大人の玩具という。




少しの残業を終えた後、
京子は手術室の更衣室を出た。

総合外科部門は関係者以外
ほとんど通らない廊下の突き当りにある。

帰宅時間が少しずれると、
大抵誰もいないため孤独感が染みる。

窓の外は曇天で、
今日は一段と薄暗い廊下を歩いていると、
見覚えのある後ろ姿が見えた。

数日しか経っていないはずなのに、
随分と久々に見た気がする。

京子はその後ろ姿に近づいた。

すると、一緒にいた背の高い男性が
先に京子に気づいた。

それにつられて振り返った牧を見て、
京子は胸が締め付けられるような、
はたまた、ほっと安心するような、
複雑な感情だった。


「あら!きょんちゃん!
 久しぶりだねぇ♡」

「…そんな久々じゃないですけど」

「あはっ、たしかにそうだな」

「お元気そうで何よりです」

「もしかして心配してくれてたの?
 やーさしいなぁもう~」

「…そうですよ」

「…ふふ」


かける言葉が、出てこなかった。

こんな時、いつもうまい言葉が思いつかない。

そんな京子を察してか否か、
牧は持ち前の明るさを見せてくれていた。