ずっと近くで、牧のオペを見てきた。
牧に絶対的な信頼を寄せる患者を見てきた。
牧の確かな技術と技量を見てきた。
だからこそ、京子は悔しさで声が震えた。
「罪であって、罪じゃない…」
込み上げてくるものを押し込んで
京子は浅野に言った。
「牧先生は?」
「明日は休む、とだけさっき連絡があったよ。
外来に自分はいない方がいいだろう、って」
「そう、ですか」
「…心配してくれるんだね」
浅野の眼差しは、なぜか優しかった。
落ち着いた大人の余裕がある。
「大丈夫。
牧くんがいないとうちは回らないからね」
「認めたくはないが、その通りだな」
荻原がそう言うと、
他の医局員も笑みをこぼして頷いた。
「世間の関心も一瞬だろうし、
またすぐ前みたいに戻るさ」
「…はい」
今の自分では、できることが浮かばない。
京子は自分の無力さを感じつつも、
2人の牧の上司に安心感を抱けたところで、
一先ずは帰宅することにした。



