君は大人の玩具という。




『7年前、M医師とともに医師団で
 活動していたNさんは、
 帰国途中の飛行機内で心不全を起こし倒れた。

 M医師が機内で処置を施すも、
 Nさんを救うことはできず、
 Nさんは上空で帰らぬ人となってしまった。』


京子は雑誌を持つ手が僅かに震えた。

更に続く文章を読めば読むほど、
目を反らしたくなる気持ちが増した。


『その際のM医師の医療行為が適切なものでは
 なかった可能性が浮かび上がり、
 Nさんの両親はM医師を医療ミスで訴え、
 法的責任を取るよう裁判所に求めた。』


しかしその後、訴えを取り下げ。

医師会副会長で次期会長候補である
牧の父親の圧力がかかったのでは…

と述べ、記事は締めくくられていた。

京子は、必死に同僚を助けようとする
牧の姿が容易に思い浮かべられた。

助けられなかったことに
どれだけの悔しさと辛さがあったことか。

こんな記事を書く人間にも、
読む人間にも、
誰にも想像できたものではない。

あれだけ命をかけて患者と向き合う医師が、
たったこれだけの記事で
外科医として患者を救えないなんて…


そんなの、絶対におかしいのに。