君は大人の玩具という。




何を言っても無駄な気がして、
いや、
正確には、答えが出ない気がして、
京子は黙ってラーメンに集中した。

隣では、老夫婦が雑誌を読みながら
ラーメンが来るのを待っていた。

他愛もない素敵な夫婦の会話でも聞いて、
頭の中から、一度牧を消したかった。

の、だが…


「お父さん、見てこれ。
 東南大の先生だって」

「おー?目隠れてるけど、
 これ、消化器外科の先生でないか?」

「そうそう!
 ゲートボールの室田さんの奥さんが
 お腹の手術してもらったって言ってたわねぇ」

「すごい先生って聞いてたけど、
 こりゃ大丈夫かぁ?
 牧先生…」


京子は丼から顔を勢いよく上げた。

それから隣の老夫婦の手元を覗くと、
妻の方がそっと記事を京子に見せた。


「あなたもご存知なの?この先生」

「あ、はい。少し…」

「怖いこと書いてあるわよ、ほら」


京子は小さく礼をしてから
箸を置いて雑誌を手に取った。

大きな見出しと、その横の写真に
京子は息を飲んだ。

目線こそ隠れているが、
それはまさに京子のよく知る牧だった。


「うそ…」

「どうしたんですか?」


渚も一緒に覗いてきた。


「これって…」

「ごめん、ここ払っといて」

「え!?」


京子は勢いよく席を立って店を飛び出した。


「ちょっと、千秋さん!?」


渚の声に振り返る余裕など、
今の京子にはもうなかった。