「千秋さん、牧先生と何かあったんですか?」
「…ゴホッ」
「え?」
仕事終わりの夕時。
京子は渚に連れてこられたラーメン屋で
最初の一口に大きくむせた。
カウンターに2人で並んで、
この店にはこれしかないメニューの
醬油ラーメンをすする。
慌ててお冷を飲んで自分を落ち着かせると、
渚は「やっぱり…」と横目を向けてきた。
「おかしいと思ったんですよね~
千秋さんの牧先生の避け方が、
いつもと違くて」
「そんな違った?」
「だって、敢えて避けてるみたい」
「いつもそうだけど」
「いやいやいや」
渚は一啜りして、
スープを飲んでから言った。
「いつもは、向こうが来るまでは普通で、
来たらめんどくさそうに毒を吐いて
追いやってる感じ?」
たしかに、と思いつつ、
京子は黙って聞いていた。
「でも今は、千秋さんが
敢えて牧先生を避けてますよね。
なんか、逆にすごい意識してるみたい」
「そんなっ!してないよ!」
「ほら、むきになった」
「…なってないよ」
「どうしちゃったんですか?ほんと…」
どうしちゃったのか、
それは京子自身も知りたいところだ。
変な夢を見てから妙に意識しちゃってます、
なんて、言えるわけがない。
そんな事実、認めたくない。
牧の手の上で転がされている気がして、
何とも言えないむずがゆさがイヤだった。
たかだか新人看護師が牧と話そうが、
飲みに行く約束をしようが、
どうだっていい。
どうでもいい。
そう思えないのは、何故なのだろうか。



