飲み会とは恐ろしいもので
その場で出た話題は
次の日には病院中に広まると
思ってもおかしくない。
消化器外科の栄光は、
たちまち病院の枠を超えて
小さなこの町の隅々に広まっていった。
それと同時に、
心臓外科医たちの手術のドタキャンも
知れ渡ることとなった。
それでも皆、普通の日常を過ごし、
普通に仕事をこなす。
今日も総合外科部門は手術に追われていた。
京子は午後から整形の手術につくのに
薬品室に薬を取りに行った。
「トランサミンと、アドナと…」
記憶を頼りに必要薬剤を集めていると、
隣の物品室の前から聞き覚えのある声が聞こえた。
「みっちゃん!今日は日勤かい?」
牧がそう呼ぶみっちゃんとは、
総合外科部門の新人看護師だ。
もちろん、牧の口説き相手の一人。
「あ、牧せんせ!
そうです、日勤なんです~」
「あとで遊びに行くねー」
「はい!待ってます!
また飲みにいきましょうね~」
…可愛い。
見なくてもわかる。
2人の平和で可愛らしいやり取りに、
京子は必要な薬を揃えたにも関わらず、
薬品室を出たくなかった。



