ちょうど発車したところで、
ワイパーが素早く動き始めた。

窓から雨に濡れる街を見る。

膝の上には、
しつこくて面倒くさい男が一人。


「なにやってんだか…」


雨は次第に激しさを増していた。

外灯と対向車のライトが眩しい。

好きな女の膝で寝ているわりには、
牧はどこか寂しそうで、
弱々しい。


『全然寝てなかったんだろうな』


荻原の言葉が脳裏に浮かぶ。


疲れてるなら、休めばいいのに…


京子は牧の僅かに濡れた髪を
そっと撫でた。

滴った雫が、涙のように目頭を伝い、
京子のジーンズに染みを作った。


あなたが夢中になっているのは、
本当に私?
それとも…――


京子の問いかけを掻き消すように、
雨は闇夜に激しく降り注いだ。