君は大人の玩具という。




腹大動脈にめり込んだがんは、
カンファレンスで発表された予定では
人工心肺を使用し、腹大動脈を遮断。
その後がんを摘出し、動脈を広げ直す、
という計画だと、カルテにあった。

しかし、人工心肺を回す用意が
何一つできていない。

心外の医師がいないためだ。

浅野と荻原が、黙って血管を触れる
牧を見つめていた。

何を考えているのか。

どんな手に出るのか。

部屋にいた一同が牧の言葉を待った。

太い血管を揉みながら、
牧はそっと目を閉じた。

そして、その長いまつ毛が揺れるのを
京子は見逃さなかった。

医師でない京子には、
次に何に踏み切るのかはわからない。

だが、牧が勝ち筋を見たのだけはわかった。


「腹大動脈の遮断
 …しないでおこう」

「えっ」