君は大人の玩具という。




花枝の右足から静脈を採取し、
それを肝動脈に移植する。

よく心臓外科の手術についている京子は、
牧の血管縫合のスピードが
心臓外科医のそれとほとんど
同じなことに気付いた。

細かい針と細い糸を
その長い指が巧みに操る。

無駄のない操作に、
京子は瞬きを忘れるほどだった。


「よし、肝動脈再建終了。
 ICGいれてくださーい」

「はーい」


新谷が返事をして、
点滴に光る液体を投与した。

干場が電気を消すと、
体内の血管を流れたICGが
肝動脈まで届くのを待つ。

数秒して、繋げた血管が
ふんわりと光輝いた。


「オッケーだね。
 電気つけてー」

「はい」


ふぅ、と浅野と荻原が一息つく。

これで、心外の協力がなくとも
肝動脈再建ができることが証明された。

当の牧は、花枝の肝臓、ではなく、
じーっと京子の方を向いていた。

褒めてくれと言っているのが
不服ではあるがわかってしまう自分がいる。

だが、ここで終わりではない。
まだ大きな問題の箇所は残っている。

京子は一つため息をついて、
次の器械を渡しながら言った。


「終わるまで、お預けです」

「ふふ、焦らすねぇ。
 でも焦らしプレイも僕好きだよ?」

「プレイって言うのやめてください」


そう言いつつ、牧は腹大動脈に
その長い指を優しく沿わせた。