「これより、伏在静脈の採取に入ります」
「本気なんですか⁉」
牧の宣言に、干場が止めに入った。
だが、牧をはじめ、浅野も荻原も
至って冷静だった。
浅野が「ガーゼ」と言って
京子からガーゼを受け取る。
荻原も吸引を持って準備に入っていた。
干場が信じられないといった顔をした。
「消外の医師が伏在静脈採取なんて、
聞いたことありませんけど」
「牧くんは経験者だからね」
浅野がフォローするも、干場は聞かない。
「いや、だからって」
「おい」
荻原が干場の言葉を止めた。
「オペの邪魔をするなら出ていけ」
さすが、昔は"オペ室の野獣"と呼ばれた男。
ドスの効いた声に、
さすがの干場も黙らずにいられないようだった。
京子はすっかり小さくなった干場に、
少しすっきりした気持ちになった。
それと同時に、
リスクを負ってでも目の前の患者を救う、
牧たちの姿に感心した。
この人たちについていこう、
そう思える医者は、
ここにはそうそういない。
底なしに軽いけどね…



