いつもは冷静な浅野が、今回ばかりは
動揺した様子で言った。
「ほかの先生にもかけてみてくれる?」
「はい」
干場は電話帳を開いて受話器を取り直した。
東都南大学病院の心臓外科医は多くはないが、
数チームが作られるほどには人数がいる。
誰か一人くらい来られるだろう、と期待を持つも、
干場の表情は曇り続けていた。
そもそも、電話が繋がらない。
繋がったとしても、来られない。
そんな医師ばかりで、
ついに最後の一人となった。
「あとは誰だ」
荻原が訊くと、干場が戸惑いつつも言った。
「…教授です」
「…」
京子は沈黙に耐えられず言った。
「ほかの人は、なぜ来れないと言ってるんですか」
「体調不良の人がほとんどだけど、
心外と消外の教授の仲が悪いからって人もいた。
恐らく全員それが理由だろうな」
「そんな…」
そんなことでオペをドタキャンって、
あり得なさすぎる…
京子は怒りを通り越して
呆れて言葉にならなかった。
このままでは、予定のオペができない。
足から血管を採取し、
肝動脈を再建することができない。
腹部大動脈の処理もできない。
花枝を、救えない…。
「それはそれは、困ったねぇ」
こんな時でも、
のんびりとした牧の声が
静かなオペ室に軽やかに響いた。



