京子はまず、牧にメスを渡した。
胸元から腹部にかけて、
大きな傷が入れられる。
それを電気メスや鉗子を使って
目当ての臓器まで広げていく。
ここまでの手順はいつも通りであるため、
京子と医師たちの間に会話はほとんどない。
京子は医師たちが欲しそうなものを
過去の経験から予想して渡していく。
自分では認めたくないが、
牧とはたしかに馬が合う。
不服ではあるが、
手渡しをするテンポやリズム感が
一番しっくりくるのは牧かもしれない。
「ベッセルたくさん使うよー」
「出してあります」
「さーすが、僕のきょんちゃん」
「あなたのではありません」
そんなやり取りをしつつも
2人の手が止まることはない。
荻原が感心したように言った。
「肝動脈を処理しながらの会話とは
思えない緩さだな」
「いつものことさ」
と、浅野が出血を吸引しながら言った。
「そろそろ心外の先生呼びますか?」
と干場が外から声をかける。
牧は「お願いしまーす」と明るく答えた。



