君は大人の玩具という。




荻原の大きな体に完全に隠れていたが、
実は後ろにいた浅野が顔を出した。

まるで仙人というか、仏のように
牧の肩をポンと叩いた。


「ではこうしよう。
 干場ナースには明後日の我々の胃全摘に
 入ってもらって、そこで牧くんが認めたら
 来週末のオペにもついてもらうということで」

「ありがとうございます!」


干場が勢いよく頭を下げる。


「牧くんも、個人的な感情で判断しないようにね」

「難しいことを仰る」


さすがの牧も、
直属の上司の提案には逆らえないらしい。


なんだ、意外とかわいいところもあるんだ…


京子は恨めしそうに干場を見る牧を見て、
牧が視線に気づく前に目線を反らした。

手術は執刀医がいかに
手術に集中できるかが鍵でもある。

患者の命が、その執刀医の腕にかかっているからだ。

そして次の手術でのメイン執刀医は牧であり、
牧が手術をしやすい環境を作るのが、
京子をはじめとしたスタッフの仕事だ。

だが、ミスターシアトルと牧が呼ぶのも納得なほど、
干場は医師と同等の立場に立ちたがるのだろう。

アメリカ流が、医師たちに変な影響を
及ぼさなければいいのだが。


「それから、千秋さん」


浅野に言われて、京子はすかさず立ち上がった。


「は、はい」

「大変な手術になると思うけど、
 またひとつ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


浅野につられてぺこりと頭を下げる。

牧はやはり不服そうだが、
これ以上は何も言えないといった様子で
浅野と荻原に続いて帰っていった。