君は大人の玩具という。




その場にいた全員の視線が干場に向いた。
牧を除いて。

干場の隣にいた細谷(ほそや)は、
総合外科部門ではかなりの古株で
今年50を迎えた皆の父親的存在だ。

そんな細谷が止める間もなく、
干場は京子を見つめ続ける牧の
脇に立って言った。


「俺が外回りします」

「却下」


牧はあっさりと言った。


「一回も僕のオペについたことないだろ?
 君は僕を知らないし、僕も君を知らない」

「まだ一週間ありますし、その間につきます。
 それに、大体のオペは感覚を掴めばできます」

「すごい自信だねぇ」


それだけ大きく出られるのは、
干場に本当にその実力があるからなのだろう。

京子は何も言わず2人の会話を聞いていた。


「先生も俺が外回りだと
 何かと助かると思いますよ?」

「ミスターシアトル、大口を叩くのはいいけどね」


牧はゆっくりと立ち上がると
随分と高いところかぐんっと干場に
顔を近づけて言った。


「きょんちゃんの前でかっこつけようたって
 そうはいかないんだからねぇ?」

「…はぁ?」


干場が今日一番の間抜けな声で言った。

京子を含めこの場にいる全員が呆れ顔だが、
戻ってきた荻原の存在で、スタッフステーションに
ようやくまともな風が吹いた。


「仕事に私情を持ち込むなー」


そう言う荻原だが、表情はどこか楽しそうだ。

渚が「そうだそうだー」と乗っかると、
牧はつまらなそうな顔で言った。


「僕のモチベーションの問題なのにぃ」