京子が椅子から一歩も動かずとも、
牧は座った椅子を転がして京子の目線に入ろうと
パソコンの向こうから顔を覗かせた。
さすがだ~
と誰もが見守る中、
京子は先輩からの「いけっ」という
視線に負けて言った。
「なんの話してたんですか?」
「ん~?気になる?きょんちゃん」
うざっ!と喉まで出かけたが
今は頬杖をついて見つめてくるこの男と
話をせざるを得ない状況だ。
京子はパソコンから目を離すことなく言った。
「まあ、それなりには」
「それなりに、か」
牧はアハッと笑うと、
周りの看護師たちを見回してから
再び京子に向き直った。
「次のオペに向けてチームを組むことにしたんだよ。
器械出しはもちろん、きょんちゃん」
「え…」
思わず顔を上げた京子とは裏腹に、
隣では渚が「やっぱり」と呟いた。
「ま、今のところ決まってるのはそれだけ。
外回りは…」
「俺がやります」
男性の先輩看護師と昼休憩から戻ってきた、
干場の声だった。



