君は大人の玩具という。




突然の登場に、誰もが言葉をなくしていた。

食事の手を止めない、雅俊を除いては。

その場がシンと静まりかえっていた。

遠くにいた増山たちも
牧と瀧本の対峙した様子を前に
何事かと驚きを隠せていない。

牧は至って冷静に、かつ冷徹な笑みを浮かべて
瀧本を見下ろしていた。

瀧本は怒りか恥ずかしさからか、
赤かった顔を更に赤らめて言った。


「誰だ、こいつを呼んだのは!
 お前らかー?」


瀧本が京子や雅俊に視線を向ける。

京子もつられるように雅俊を見るも、
雅俊は黙々と串から鶏肉を離していた。


「瀧本教授」


牧は、京子が今まで聞いたことのないほどの
冷めた声で言った。


偶然居合わせた(・・・・・・・)私が、
 先程のお言葉を"聞いたという事実"、
 どうかお忘れなく」

「…お前」

「千秋さん」


牧は突然ニコッと笑みを浮かべて
京子に向き直った。

初めて呼ばれた呼び方に、
京子は思わず背筋が伸びた。


「は、はい」

「飲みすぎに気を付けてくださいね」

「ぁ…はい」


てっきり帰るよう呼ばれるのかと思ったが、
そうではなかった。

牧はそのまま背を向けて
店を出ていった。