だが、瀧本は意外にも冷静だった。
「あれは、うちの秘書が勝手にやったことだよ」
「えー、絶対ウソ。
教授命令でしょー」
「…」
瀧本は一瞬黙るも、
京子のお猪口に手酌しつつ言った。
「さすが。わかってんじゃない」
周囲で笑いが起こる。
京子は心の中で、
半分はガッツポーズ、
半分は怒りの拳を掲げた。
そして鞄の中のスマホにそっと手を伸ばした。
この証拠があれば、先生は戻ってこれる…!
目標を達成した京子は、
もう愛想笑いを浮かべるのをやめた。
こんな人たちのせいで、
花枝の命は危険にさらされた。
どんな理由があろうとも、
それは医療者としてあるまじきことだ。
牧がいなかったら、
花枝は確実に助からなかった。
それなのに、個人的感情、嫉妬心で
牧まで追い詰めた。
これ以上、許せない。
仕返しをしなきゃ、気が済まない。
京子が鞄からスマホを取り出して
口を開いたその瞬間、
「あなたの口からそれが聞けてよかったです」
テーブル横に立っていたのは、
店員ではなく、
牧本人だった。



