雅俊がスマホを操作しだしたため、
京子は黙って目の前にあった
サーモンのマリネのようなものに箸を伸ばした。
すると、瀧本が腰巾着2人を連れて
京子たちの目の前に座った。
「君ら仲良かったの?」
オペ中とは大違いの声の聞き取りやすさから、
瀧本がある程度酔っていることがわかる。
京子は愛想笑いを浮かべつつ言った。
「まぁ、少しだけ」
「まぁ、少しだけ」
瀧本が笑みを浮かべて復唱した。
どうやら面倒な酔い方をするタイプらしい。
京子はとにかく笑顔で向き合うしかなかった。
雅俊がスマホを置いて顔を上げた。
「すみません、仕事の連絡で」
「いいよ、いいよ。
フリーランスだから許す」
「すみません」
意味の分からない許可に、
雅俊は笑み一つ浮かべず言った。
京子は本物のクールを見た気がした。
向こうで相当飲んできたのか、
瀧本は馬場たちを介さず
自分で日本酒を注文しだした。
待っている間、
目の前のおしぼりで顔を拭き、
その赤い顔を京子に向けた。
「君は、腕のいいオペ看だったね」
「いえいえ、そんなことは」
「いや!千秋さんはすごいですよ」
と馬場が割り込んで言った。
馬場も相当酔っているようだった。
運ばれてきた日本酒を注ぐ手も
顔もちゃんと赤い。



