僕らは、夏の終わりに最後の恋をした

「じゃあなー」
午前11時。
始業式は楽だ。早く帰れる。
「凜空ー!」
母さんの声が校門に響く。
「病院行くわよ!早く乗って!」
軽く走る。秋の空気が漂う校門。
卒業まであと7ヶ月。
夏音に告白することはできるのだろうか。
車に乗って学校を出る。
母さんの好きな洋楽が流れる車はなんだか心地いい。
「着いたわよ」
真っ白な壁に赤い十字架マーク。
よくある病院だ。
名前を書いてベンチに座る。
よく馴染みのあるベンチは昔から変わっていない。
静かな病院は学校や家とは違う雰囲気があって好きだ。
「柚木さん、柚木凜空さん」
名前を呼ばれ診察室に向かう。
「お久しぶりです。白野先生」
「やぁ、凜空くん。どうだね。調子は」
「随分前より楽になりました」
「じゃあ今日も検査するから横になって」
「はい」
機械の音が診察室に鳴り響く。
深刻そうな顔をした先生は診察室の奥に行ってしまった。
その途端、不安と恐怖が僕を襲う。
看護師さんと長い間話した先生はやっと奥から出てきた。
重い口を開いた先生は信じられないことを言い出した。
「凜空くん、お母さん、驚かずに聞いてください」
ゴクッと息を呑む。
「凜空くんは心臓病が進行しており、凜空くんは非常に残念ですが、持って余命3ヶ月と言ったところです…」
「……」
沈黙が流れる。
母さんは青ざめていて、今にも泣きそうだ。
ごめん、母さん。
そんな沈黙を破るように白野先生は言った。
「なのでお母さん。この3ヶ月、悔いのないように過ごしてください」

車に乗り込んだ。でも、母さんの好きな洋楽が聞こえないくらい、絶望していた。
僕はまだ18だ。修学旅行だってまだ行ってないし、行けないかもしれない。
文化祭もギリギリで参加できるかさえ分からない。
家に着いて、すぐさま自分の部屋に籠った。
扉を閉めた瞬間、泣き崩れた。
扉の向こう側から啜り泣く声が聞こえる。
これからの未来も閉ざされた。
悔しくて、情けなくて、悲しくて。
ずっとずっと泣いた。