那奈さんはその迫力にあっけにとられたみたいに目を丸くして皓さんを見つめる。

そしてまたその大きな目からはポロポロと涙が溢れた。

「…違うの、って言っても信じてもらえないかもしれないけど。本当に違うの。」

皓さんの鋭い視線は那奈さんに向けられたままだ。

「皓をいらないとか、邪魔だなんて一度も思ったことなんてない。捨てるなんてそんなこと…だけど言い訳したってきっと捨てたって思われると思うの。」

那奈さんは鼻をすすり、しゃくりあげながら言う。

「皓の両親にね、ずっと反対されていたの。産むことも、育てることも。父親だったあの人が大切な跡取り息子だったこと知ってた。でも皓だけは産みたかった。大好きな人との子供がだったから。」

相手の人、そんな人だったんだ。

そりゃ20歳で子供ができたなんて言われて簡単にはい、そうですかなんて言えないよね。

「産んだ後、皓を引き取るって言われた。だけどそれだけは嫌だった。大好きな人を失っても皓だけは失くしたくなかったから。」