合宿への出発の朝。
「はい。これ!」
七海は,俺の鞄のなかに包みを押し込んだ。
「なんだよ。これ。」
「いいから,いいから。
運動ばっかしてると,
本当に運動馬鹿になっちゃうから。」
「馬鹿,馬鹿って,おまえさ・・・」
「じゃあ,頑張ってきてね。
港には見送りにいかないから。」
そういうと,七海は手を振って,
図書室の方へ歩いていった。
俺は,高速船に乗り込むと,
鞄をあけ七海が押し込んだ包みを開けた。
「げぇ 本や・・・」
中には文庫本が5冊入っていた。
そのうちの1冊を手に取ると,
間から手紙が出てきた。
どうせ疲れて読まないだろうけど
身体ばっかり酷使しないで,
頭の中身も使わないと,腐れるよ。
読みやすいもの選んでみたの。
睡眠薬だと思って。
怪我しないように,頑張って。
直樹。
どこにいても大好きだよ。
ありがとう。
七海
5冊のうち,2冊は天体関係の本で,
あとはよく知らない作家の本だった。
手紙を読みながら,
俺は自然と自分の頬が緩んでいくのを感じ,顔を引き締めようと努力した。
天体関係の本を開くと,
昨日興奮して眠れなかったせいか,
数ページも読むと,
高速船のゆれの中で,
眠りに落ちていった。
「ほら,睡眠薬でしょう・・・」
頭の奥の方で,
七海の笑い声が小さく聞こえた気がした。