神殺しのクロノスタシス2

さて、昼休み。

朝食のときと同様、令月は食堂が開くや否や、脱兎のごとく駆け込み。

一口30回の咀嚼で、僅か数分で完食。

こいつとレストランで食事とか、絶対出来ないな。

あまりの早業に、シルナオオカマキリが間に合わない。

「おいシルナカマキリ。もっと速く走れないのか」

「そんなこと言われても、如何せんカマキリだから速度が…」

全然捕捉出来てないぞ、令月を。

「あ、そうだ。カマキリって飛べるんだよね。ちょっと飛んでみようか」

え、お前。

ブーン、と羽ばたくシルナオオカマキリ。

おぉ、やれば出来るじゃないかと思った、瞬間。

「きゃーっ!」

廊下の曲がり角で、急速旋回しようとしたシルナオオカマキリと。

お友達とぺちゃくちゃ喋りながら、食堂に向かおうとしていた女子生徒(一年生)が、正面衝突。

シルナオオカマキリは、痛覚がないから良いとして。

ただ食堂に行こうとしていただけなのに、時期外れの巨大なカマキリ(しかも飛んでた)と接触してしまった女子生徒は、

あまりに突然の事態に、叫び声をあげ。

しかも、自分が衝突したのがオオカマキリだと理解した途端。

ぶわっ、と涙が溢れ。

「うっ…ふぇぇぇぇん!」

廊下にぺたりとへたり込んだまま、大声をあげて泣き出してしまった。

これは仕方ない。

いきなりカマキリと衝突したら、そりゃそうなる。

これが屋外ならまだしも、校舎内でさ。

時期外れのカマキリと、顔面正面衝突したら。

そりゃ誰だってパニックになるし、しかも相手はまだ少女。

多分、色々と脳内キャパオーバーして、泣き出してしまったのだろう。

「えっ、えっ、そんな。だ、大丈夫だよマーガレットちゃん。私、私シルナだから。カマキリだけど。カマキリだけどシルナだから、大丈夫!」

あの子、マーガレットちゃんっていうのか。

トラウマにならなければ良いのだが。

「大丈夫!?しっかりして」

「しっ、しっ、あっち行け!」

マーガレットの友達二人が、泣き出してしまった友人を守ろうと、勇敢にもシルナオオカマキリに立ち向かう。

良い子達だなぁ。

それに比べて、シルナ(カマキリ)は。

「大丈夫!泣かなくて大丈夫だから!私シルナだから!」

必死にアピールするが、如何せんカマキリなので、鎌を掲げて威嚇してるようにしか見えない。

マーガレット視点からすれば、「なんだやんのかコラ」と言われてるようなもんだ。

あぁ、可哀想で仕方ない。

当然、余計に怯えたマーガレットは、友達にしがみつくようにして啜り泣く。

一人は必死にマーガレットの背中をさすり。

もう一人の友人は、果敢にもハンカチを取り出して、シルナオオカマキリをしっ、しっ、と追い払おうとしていた。

自分だって怖いだろうに。可哀想に。

廊下に響く少女の泣き声に、他の学年の生徒達も、なんだ何事だ、とざわめき始めた。

やべぇ。

「何だこいつ…カマキリじゃねぇか」

「何でこんな季節に?」

「君、大丈夫だよ。すぐ追い払うから」

居合わせた上級生の男子生徒数名が、シルナオオカマキリを取り囲む。

偉い。下級生を守ろうとするその姿勢、大変偉い。

すると、そこに。

「一体何事ですかね?これは」

「あっ…ナジュ先生」

教師仲間、ナジュ・アンブローシアが通りかかった。