神殺しのクロノスタシス2

…なんて。

思ってた時期が、俺にもありました。

「聞こえてくるんだよ…。井戸の底からね…。『いちま~い、にま~い、さんま~い…』ってね」

「…」

「『はちま~い、きゅうま~い…』そこで声が止まる。恐れを為した屋敷の主人が、そお…っと井戸に近づくとね…」

「…」

「くら~い井戸の底から、中指のない朽ちた手が、ぬ~っと出てきて…」

「…」

…ごくり。

「…『わ゙だじの゙ゆ゙びを゙がえ゙ぜぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙!!!』」

「きゃぁぁぁ!」

「ひぃぃっ!」

「いやぁぁっ!」

「ぴきゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

最後の悲鳴、シルナな。

シルナが一番びびってる。

カマキリの分際で。

しかし、さすがの俺もゾーっと来たぞ。

たかが子供の怪談話と思ってたら。

一生モノのトラウマ植え付けられるところだった。

「…以上、『八百万都市伝説』の一つ…。『坂町皿屋敷』のお話でした」

「…」

ぶるぶるぶる。

「…続き、言っとく?」

ぶんぶんぶん、と首を横に振る生徒達。

もう、教室中の皆が聞いてるから、皆冷や汗かいてる。

聞いてない振りしてた生徒とか、もう関係ない。

取り繕うのも忘れて、皆でびびりまくってる。

しかも。

「さぁ!二時間目を始めますよ」

そこに、絶妙なタイミングでイレースが入ってきたもんだから。

「うわぁぁぁぁ!」

「指が!指取られる!」

「許してくださいぃぃ!!」

大パニックの二年Aクラス。

「ぴょえぁぁぁぁぁぁっ!!!」

今のはシルナな。

「…?何ですあなた達。指なんて取りませんよ。馬鹿なことを言ってないで、早く授業の準備をしなさい」

ガクブルで席に着き、震える手でテキストを取り出す生徒達。

間違えて、別の科目のテキストを出してる子もいた。

動揺し過ぎだ。

そんな中、一人、してやったりみたいな顔でにんまりしている令月であった。

…お前さぁ、マジで。

このまま行けばクラスの大スターだが、一歩間違えたら友達なくすタイプだな。

その点、ナジュと気が合いそうだなぁと思った。

それから。

「シルナ。おいシルナ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、指返す、指返すから呪わないでくださいお願いしますお願いします」

生徒より、誰よりもびびってんじゃねぇよ。

カマキリの分際で。