神殺しのクロノスタシス2

実技授業はともかく。

「座学の遅れの方はどうする?」

令月は、二年生として編入する。

潜入暗殺の一環で三ヶ月程度授業を受けてはいたものの、あのときはシルナの暗殺のことで手一杯で、授業なんて身に入らなかったろうし…。

今は2月。改めてこれから二年生として過ごす期間は、たった二月程度。

春休みが明ければ、もう三年生だ。

実質二年分、他の生徒より遅れていることになる。

その埋め合わせを、どうしたものか。

「それについては、私から提案があります」

イレースが、率先して手を上げた。

意外だな。イレースから提案とは。

「イレースちゃん、提案って?」

「…そもそも私はこの一年、とても不満でした」

…ん?

なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。

「一学期から、何処ぞの読心教師が私の完璧な授業計画を狂わせ…」

「誰でしょうね、そんな悪質な教師は僕が成敗してやりますよ」

お前だ、お前。

「そのせいで、前年度と比較して、一年生の成績平均が、4.62%下がっているのです」

マジで?

何処から出てきたんだその数字。

「イーニシュフェルト魔導学院として、これは大変恥ずべき事態。何としても、挽回せねばなりません」

「そ、そうなの…?良いじゃない、たった4%くらい…」

と、シルナが言うと。

イレースの目が、キッ、と光った。

怖っ。

「良くありません!4.62%を四捨五入してみなさい。5%ですよ!成績平均が!5%も下がっている!これは大変由々しき事態です」

「そ、そ、そう…だね…?」

疑問系シルナ。

「よって私は、二学期までの成績が一定水準以下の一年生対象に、2月~3月下旬の放課後、及び春休み始めの三日間に、集中講座を開くことを提案します」

…。

…要するに、赤点の生徒を集めて、補習授業やるってことだな?

「そこに、令月さんも参加してもらうのが良いかと」

「な、成程…」

「それでも足りない部分は、放課後等私か、学院長がマンツーマンで指導します。それで何とか、間に合わせましょう」

若干スケジュール詰め詰めな気がするが。

付け焼き刃でも、一応周りと学力合わせておかないと、後々困るからな。

「僕、本当にそれで生徒になって良いの?」

「良いよ」

「でも、国籍が違うよ?」

「国籍の方は、私がフユリ様に頼んで、仮国籍を取得してる状態だからね。もう少ししたら、本物の国籍を取得出来る。堂々とルーデュニア人を名乗って良いんだよ」

「…ふーん…」

あまり、実感がなさそうな令月。

今まで住んでいた世界と違い過ぎて、ギャップに戸惑ってるんだろうな。

大丈夫だ。じきに慣れる。

お前ぐらいの年の子は、普通こんな平和な暮らしを送ってなきゃいけないんだけどな。

ちゃんと、取り戻させてやるから。

お前に、平穏な暮らしを。

「…でも僕、自分の名前も上手く書けませんよ?」

…マジで?

そこからなの?

「え、よ、読み書き出来ないの?」

「指令書が来るから、それは読めるけど、書く方はあんまり」

読めるけど書けない。マジか。

「わ、分かった。一緒に頑張ろう。出来るようになるから」

「うん」

とにかく歩き出せ。

まずは、第一歩から。

歩き続ければ、いつかは前に進んでるもんだ。

と、思ってたら。

令月は何故か、その場に膝をついた。

「じゃあ、この黒月令月、不束者ですが、どうぞ宜しくお願い致します」

「いやあの、土下座しなくて良いから。土下座の挨拶とかは要らないから。ね?それはやめよう」

…。

…前途は、多難だな。