──────…シルナと出会って何千年。

こいつ、何言ってんだろうなぁと思った瞬間は、数え切れないくらいあるが。

今回も、そう思った。

お前、何を言ってんだ。

全体的に良いこと言ってる気はするが。

まず、そんなやり方で不正入学してきた奴を褒めるな。

そして笑うな。

笑える状況じゃないだろ、それ。

しかし。

シルナは中年だが、伊達に長生きはしていない。

「…んん」

ぎゅっ、と。

令月が、俺の服の裾を握った。

「んんん…」

その顔を見れば分かる。

シルナの言ってることは、大体とんちんかんなことばっかりなんだけど。

今回ばかりは。

「んー…」

「…何か言えよ」

「んん…」

今の令月の顔を、どう説明したら良いのやら。

人間、泣きたいのを我慢すると、こんな顔になるんだろうなって。

そんな典型的な顔をしている。

で、多分泣きたいのを我慢して、んーんー言ってる。

そうか。

泣くことも許されなかったか。そうか。

今までずっと、そんな酷いところにいたんだな。

それに比べたら、座敷牢に閉じ込められていた前の俺は、まだ優しかったんだろうな。

「別に泣けば良いんだぞ」

そんな服引っ張られたらちぎれるから。な?

お前まだ子供なんだし。

泣くことも許されなかったんなら、今から好きなだけ泣けば良い。

服ちぎられるより、涙でぐちょぐちょにされた方が小気味良いから。

すると。

「…」

「…」

無言で、ぼろぼろ涙を流していた。

嗚咽することもなく、黙ったまま泣くとはお前、器用だな。

あと服引っ張るのやめろって。

まぁ良い。

良いじゃないかそんなこと。

令月・スタングラークだか、黒月令月だか知らないし、どっちでも良いが。

とにかく、この令月という少年が、人生で初めて、生きてるだけで存在を認められて。

許されて、褒められて、感謝されて。

それが嬉しくて、初めて人並みに…泣き方がちょっと特殊だが…泣くことが出来たんだから。

それで充分じゃないか。

「…これで、結論は出たね」

見ろ。

シルナの、この勝ち誇った顔。

教育者として、自分の方が優れていると言わんばかり。

はいはい分かった。お前の方が優れてるよ。

少なくとも、この腐れ老人よりは、遥かにな。

「…愚かなり」

敗北を察したらしい老人が、吐き捨てるようにそう言った。