いや、それは訓練ではない。

そんな生易しいものではない。

一言で言えば、それは拷問だった。

決して組織を裏切るな、決して頭領を裏切るなと。

ありとあらゆるおぞましい方法で、毎日毎日、一分一秒の休みなく。

僕は、死の一歩手前まで虐め、責め抜かれた。

それは「洗礼」だった。

『アメノミコト』の頭領に、絶対忠誠を誓い、頭領のお気に入り…親衛隊に数えられる為の「洗礼」。

それに耐えることが出来れば、晴れて頭領の親衛隊に入ることが出来る。

耐えることが出来なければ、それまでのこと。

そして今、僕は生きている。

生きているということは、僕はあの地獄の「洗礼」を、すんでのところで生き延びたのだ。

生き延びてしまったのだ。

頭領の親衛隊になる条件を、満たしてしまった。

それは暗示だ。

それは保険だ。

万が一僕が、頭領を裏切り、『アメノミコト』から抜け出したときの為に。

僕がちゃんと、反省して組織に戻ってくるように。

魂の奥に、深く深く刻み付けられた、

痛みという、恐怖。

「あ…あぁ…」

僕自身、今に至るまで、自身にかけられたこの「保険」を思い出せなかった。

不死身君でさえ読み取れない。

僕が心に浮かべていないこと、僕が記憶していないことは、彼にも分からない。

今ようやく、僕は思い出した。

「保険」が発動した。

「だから君を…ここに来させたくはなかった…!」

シルナ学院長が、唇を噛み締めるように言った。

頭領の口許が、にやり、と歪んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

魂の奥深くから、爆発するような恐怖が襲った。