「…僕を、殺して欲しい」

もう、そうするしかない。

僕に残された選択肢は。

今ここで殺されるか、『アメノミコト』に帰って殺されるか。

いずれにしても、僕に死以外の選択肢はないのだ。

今死ぬか、後で死ぬかの差でしかない。

どうせ死ぬなら、今ここで、精々苦しまずに殺して欲しいところだが。

暗殺者の僕が、それを望むのは贅沢というものだ。

今まで、手段を選ばずに他人を殺してきたのに。

自分だけは楽に死にたいなんて、そんな贅沢、許される訳がない。

「ふーん…。暗殺屋も結構大変なんですねぇ」

と、他人事のように言うナジュ・アンブローシア。

僕が失敗したのは、お前のせいなんだけどな。

「僕のせいじゃないですよ、失礼な。敵がどんな魔法を使うか、事前に調査してなかった自分の落ち度でしょ」

その通り。

ぐうの音も出ない。

「まぁナジュの性格の悪さも筋金入りだけどな」

「ひどーい。僕が教えなかったら、危うく皆さん、暗殺されるところだったんですよ?」

「それにしたって、制限時間ギリギリまで黙っとくのは意地が悪いだろ」

「だってこの人も、これくらい追い詰められなきゃ、ボロ出してくれないじゃないですか」

「…」

歯痒い。

馬鹿にされているようで、非常にムカつく。

実際馬鹿にしてるし。

「まず言っておくけど」

と、学院長。

「私は、君に殺されてあげるつもりもないし、君を殺すこともしないよ」

…あくまで、自分の古巣に…『アメノミコト』に帰ってから、勝手に殺されろってか。

「なんか勘違いしてるみたいですよ、学院長」

「やっぱり?」

「ちゃんと言ってあげないからだよ。私は、君の味方だって」

「…!?」

味方?

味方って…どういう意味だ。

「ナジュ君から、全部聞いたんだよ。君のこと」

「…」

にや~と嫌な笑みを浮かべる、ナジュ・アンブローシア。

この男、両手を縛られてなかったら殺してる。

「好きで、『アメノミコト』に入った訳じゃないんでしょ?」

「…それは…」

そう…だけど。

でも。

「馬鹿にするな。『アメノミコト』に入ってる連中は…大体皆そうだ」

自分から望んで、組織に入った者なんてほとんどいない。

皆僕みたいに、売られたり、貧しさのあまり他に行くところがなくて、仕方なく入っただけ。

僕だってそうだ。

あの人買いに売られたから、『アメノミコト』に入っただけで。

だからって、ターゲットに同情されたくない。

僕だって、暗殺者には暗殺者の、プライドってものがあるのだ。

「安いプライドですね。死んだら皆終わりなのに」

「…うるさい」

こんな安いプライドでもなければ、生きていけない者の気持ちが分かってたまるか。

「ナジュ君。君は言葉が悪い」

「はいはい分かりました。通訳必要なとき以外は黙っときますよ」

一生喋るな。

あと、そのにやついた顔をやめろ。