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第三部3章 (32/39)
「い…一体どうしたの突然。イレースちゃん、何かに取り憑かれちゃったの!?」
「何にも取り憑かれていません。失礼な」
「じ、じゃあどうしたの?いきなりマラソン大会なんて…」
「…私が初めてここ、イーニシュフェルト魔導学院に来てから、ずっと思っていたことを言いましょう」
「えっ」
何だろう。
シルナの口が臭いとか?
「生徒が!軟弱過ぎるという点です」
おぉ。
良かったな。口臭は大丈夫らしいぞ。
「生徒が…軟弱…?」
「そうです。確かにイーニシュフェルトでは、魔導のレベルは高いでしょう。しかし!」
「し、しかし…?」
「生徒の基礎体力が、全体的に低い!私は、これを憂慮しているのです」
…基礎体力。
成程。良い言葉だな。
「便利な魔法にばかり頼っていても、いつでも傍に杖がある訳ではありません。いざとなれば、物を言うのは己の身体自体です」
確かに。
いくら魔法が強くても、杖を取り上げられて相撲取りに囲まれたら、為す術ないからな。
「…そんな状況、あります?」
「物の例えだよ、ナジュ…」
いちいち心を読んでまで聞くな。
相撲取りじゃなくても、野犬でもハイエナでも何でも良いよ。
「そんなとき、身体を鍛えておかないでどうしますか」
「…うーん…」
俺は、良い案だと思うけどな。
「ただでさえイーニシュフェルトは、学院長がこんな体たらくですからね」
イレースは、お菓子の食べかすが散らかったデスクを、冷ややかな目で見下ろした。
いいぞイレース。もっと言ってやれ。
もっと心を抉る感じの。
「ここいらで、鞭を一発入れておくべきでしょう」
愛の鞭って奴だな。
優しいだけが教育ではない。
たまには、厳しくもしなければ。
「そんな…。やるとしても、生徒が帰ってきて、暖かくなってきた頃に…」
「馬鹿ですかあなたは」
馬鹿呼ばわり。
「真冬にやることに意味があるんです。しかも、冬休み明けその日に!今年一番の書き初めならぬ、走り初めです」
そんな年は始めたくなかったなぁ。
「心を鬼にして、まずは10キロですね」
「10!?」
大きく出たなぁ。
さすが、ラミッドフルスの鬼教官と呼ばれただけのことはある。
「問題ありません。ラミッドフルスでは、毎年恒例行事でしたから。鞭で追い回せば、死物狂いで10キロくらい走ります」
「お、恐ろしい…!私の可愛い生徒達が…!」
「勿論、教師も全員参加しますよ」
「!?」
シルナ、愕然。
目の前に大好物のケーキがあるのに、それすら目に入ってない。
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