「くそっ…。くそっ、くそがっ!」

「…」

ヴァルシーナは、続けざまに私に攻撃を打ち込んできた。

私はそれを冷静に避け、かつ弾き飛ばし、いなしていった。

それほど難しいことではない。

時魔法を使う羽久や、読心魔法を使うナジュ君の方が、余程怖い。

ヴァルシーナは確かに天才だ。イーニシュフェルトの名に恥じない、素晴らしい逸材だ。

けれど。

「…君では、私を殺せないよ」

「ぐあっ!」

私は、ヴァルシーナの背後に回り込み、光魔法を飛ばした。

まともに食らったヴァルシーナは、地面に土下座でもするように、杖を落として突っ伏した。

「…何故あのとき、私が神殺しの魔法の使い手に選ばれたのか…分かるかい?」

「ぐっ…」

ヴァルシーナはそれでも諦めず、立ち上がって杖を握った。

「それは、私が一番の『適役』だったからだ…。君以上にね」

「…!黙れっ!」

彼女の放った攻撃を、簡単に相殺する。

ヴァルシーナは、確かに天才だ。

でも。

私が育て、私を慕ってくれる彼らほど、多才ではない。

ヴァルシーナは、ずっと私に対する復讐だけを考えて生きてきた。

かつて私が、邪神を殺める方法を必死に模索していたときと同じ。

君は、昔の私に似ている。

だから分かるんだ。

君は私に勝てない。

復讐で頭をいっぱいにして、周りが全く見えてない。

かつて私がそうだったから、よく分かる。

駄目なんだよ、ヴァルシーナ。

「私は正しい。私はイーニシュフェルトの里の、正統な後継者で…!使命を果たす為に…!」

「そうだね」

私がまだあの頃の私だったとしたら。

きっと君と一緒に、邪神を消す方法を考えただろうね。

でも私は、出会ってしまった。

私は愛を知った。

だから、もう戻れない。

この愛という感情は、不思議なものだね。

君には、まだ分からないかもしれないけれど。

愛を知り、初めて私は、目の前が開けたのだ。

…だから。

「盲目の君に、私は殺せない」

想定外の事態が起きたのは、その時だった。

私が気絶させた羽久が、よろよろと起き上がった。

そんな、まさか。

これほど早く目を覚ますなんて。

最低でも半日は眠っていられるように、威力を調整したはず。

しかし。

私は、失念していた。

「…」

その子は、子供がするように、きょろきょろと辺りを見渡した。

まさか、このタイミングで。

「…しーちゃん」

羽久じゃない。

羽久は、確かに眠らせた。

代わりに。

二十音の方が、目を覚ましてしまった。

これは、さすがに想定外だった。

「死ねっ…!死ねっ!死ねっ!この裏切り者がぁっ!」

「ちょっ、ヴァルシーナちゃん、今は」

ヴァルシーナは、二十音が目覚めたことに全く気づいていなかった。

それだけ頭に血が上っているのだろうが、しかしこの状況は最悪だ。

と言うか、

「貴様が…!そんな軽々しく、私を呼ぶなぁっ!」

むしろ怒らせてしまった。

違うんだ、そうじゃなくて、私が言いたいのは、

「…しーちゃん。の、敵」

二十音の、ぼんやりとした目が、ぎらりと覚醒した。