「えーと…。報告書を読むと分かるように、この報告書には肝心なところ…そもそも何故『禁忌の黒魔導書』の封印が解かれたのか、ここがまだ明らかになってない」

そこを明らかにしないことには、また同じ手口で封印を解かれる羽目になるかもしれない。

それじゃあいたちごっこも良いところ。

何度閉じ込めても脱走されるんじゃ、聖魔騎士団の面目も丸潰れ。

それだけは、絶対に阻止しなければならない。

あの禁書を巡る一件で、ここにいる数名の魔導師達も含め、どれだけの人間が被害を被ったか。

あんなものに手を出した大馬鹿野郎を、野放しにはしておけない。

その為。

「シュニィちゃんと、ここにいるベリクリーデちゃん。この二人で、禁書の封印を解いた犯人について捜査する予定…だったんだけど…」

「…」

…生憎、シュニィは身重で動けない。

めでたいことではあるが、このメンバーの中でも頭一つ抜けているであろう実力の持ち主が欠けることは、戦力的には少々痛手。

「ご存知の通りシュニィちゃんは動けないから、代わりのメンバーを決めないといけない」

それで、彼らが集められた訳だ。

禁書と直接関わりがあった、イレースも含めてな。

「あまり大人数で捜査したら、犯人に勘づかれる危険があるから…メンバーは変わらず、二名にするつもりなんだけど…」

「じゃ、一枠は私で確定?」

と、首を傾げるベリクリーデ。

本来なら、ベリクリーデも捜査メンバーに選ばれていた訳だからな。

しかし。

「いや、魔導師同士の相性もあるから…。この際、一旦白紙に戻して、一から考えようと思う」

ベリクリーデは確かに強い。

それに、俺と同じ…「特殊な」力を使うことが出来る。

だが、ベリクリーデの魔法は元々大味で、性格的にも、若干粗削りな面もある。

それが悪いと言っている訳ではない。

むしろ、そこがベリクリーデという魔導師の強みだ。

故に、そこを相性補完する為に、シュニィがメンバーに選ばれていたのだ。

シュニィはベリクリーデとは対照的に、繊細で、戦略的な魔法を得意とする。

お互いがお互いの弱点を補い合い、長所を生かせる組み合わせだったのだ。

だが、そのシュニィが欠けるとなると…。

もう一度、一から編成を考え直すべきだ。

すると。

「私、やります」

クュルナが、率先して申し出た。

「禁書には借りがあります。それを返さなくては」

「それなら、私もです」

次に、イレースが名乗り出た。

「私も禁書に手を出した者。けじめは、自分でつけます」

…責任感溢れる女性陣達だ。

そんなに気にしなくて良いと思うのだが。

案の定。

「待てよ。むしろ、因縁のある奴らは外した方が良いんじゃないか?」

との、ジュリスの意見。

「確かに…。良くも悪くも、感情的になる危険性がある」

ジュリスの意見に、エリュティアも同意した。

「私は…感情的になんて」

「勿論分かっている。だが、もし戦闘にでもなれば、無意識に冷静さを欠いてしまう可能性はある」

と、クュルナを遮る無闇。

…難しいところだ。

『禁忌の黒魔導書』に因縁のある魔導師達は、当然自分の手でけじめをつけたいと思う。

だが、因縁があるだけに、無意識だとしても、感情的になってしまう可能性が生じる。

敵は、『禁忌の黒魔導書』の厳重な封印を解いてみせた。

並みの相手ではなかろう。

このメンバーが簡単にやられるとは思えないが、精神的に揺さぶりをかけられては、万が一ということもある。

人選には、慎重を期す必要があるだろう。