勿論、ここにいるのは本物の彼女じゃない。

僕の中にある彼女の魂が、幻影を作り出して現れた、所詮は偽物の身体。

触れることは出来る。温もりを感じることも。

だけど、それは僕の記憶にある「情報」が、彼女の姿を模して映しているだけ。

虚しい、空っぽの身体。

それでもやはり、そこに宿るのが彼女の魂そのものであることに、変わりはない。

だから僕は、ここに来ると安らぎを覚えるのだ。

まるで、生きていた頃の彼女に再会出来たようで。

…今までの辛いことや寂しいこと全部、なかったことに出来る気がして。

そんなはずはないのにね。

そんな風に考えてしまうんだよ。

僕は弱いから。

他の人みたいに、僕は強くないから。

心の中に残る記憶に、頼ることしか出来ないほどに。

「…また寂しくなっちゃった?」

そんな僕の心を案じてか、リリスがそう聞いた。

「…僕はあなたを失ってから、ずっと寂しいですよ…」

「ふふ。そっかー。そうだね、私も寂しい」

全く、リリスと来たら。

笑い事じゃないっての。

「…ずっと傍にいるのに…」

ずっと、誰よりも僕の近くにいるのに。

それなのに、一度も触れられなかった。

その孤独は、簡単に埋められるものではない。

だから、こうして精神世界で一緒にいるときは。

もうこのまま、永遠に僕達の時間が止まってしまえば良いのにと思う。

でも出来ないんだよね。

僕達には、まだ許されない。

「…ごめんね」

リリスは、僕の頬を包み込むように撫でた。

その温もりは本物なのか、僕が勝手に作り出したものなのか。

きっと後者なのだろうけど、今は前者だと信じたい。

「君に罪を背負わせたのは、全部私のせい」

「…あなたの、せいじゃ」

「ううん、私が悪いの。私は、君を失いたくなかった…」

「…」

その気持ちは、よく分かる。

リリスは僕を失えば、また一人ぼっちになってしまう。

だから怖かったんだよね。

孤独に耐えられなくて、それで僕と融合することで、僕の中で生き続けて…。

結局そのせいで、またお互い、一人ぼっちになっちゃったんだから、意味がないのかもしれないけど。

僕達は、似た者同士だ。

お互い、ただ、永遠に一緒だと誓い合える相手が欲しかった。

ただ、それだけの話なのだ。

その為に、どれだけの命が犠牲になったとしても。

そんなこと、どうでも良いって。

かつてシルナ・エインリーがそうであったように。

世界のこととか、他人のこととかどうでも良いから。

ただ、愛する人の傍に、ずっといたかっただけなのだ。