神殺しのクロノスタシス2

この人の場合。

本人がって言うより、お母さんの方が自惚れてたみたいだな。

多分本人は、もう気づいているんだと思う。

今までのようには行かない、と。

むしろ今までと同じやり方では、通用しない、と。

何とか追い縋るようについていって、ギリギリこの成績を維持している。

別に良いじゃないか。

イーニシュフェルト魔導学院は、入学から卒業まで六年間もあるのだ。

これから少しずつ、いくらでも挽回していけば良い。

何なら、このままずっと、崖っぷちの成績のままでも良い。

イーニシュフェルト魔導学院卒業、と履歴書に書いてあれば、それだけで立派な烙印だ。

例えそこで、底辺の成績だろうが、な。

そんな、学生時代の成績表ぶら下げて生活する訳でもなし。

そこまで神経質にならなくても良いじゃないかと、俺は思うのだが…。

「いいえ。うちの子は優秀なんです」

あ、そう。

そんなに息子に自信があるのか。

それとも、そんな息子を育てた自信があるからか。

「だから、こんな成績表は間違いです。ちゃんと直してください」

「え、えぇと。そう申されましても…。当校としても、特定の生徒だけを特別扱いすることは出来なくて、」

「特別扱いしろなんて言ってないでしょう!まるでこちらが悪いみたいに!」

いやそっちが悪いだろ。

と、言わなかった俺、偉い。

「いや、そっちが悪いでしょ…」

ぼそっと呟いたナジュ。お前は駄目だ。

まぁ、聞こえてないみたいだからセーフ。

「特別扱いじゃなくて、正当な成績に戻せって言ってるの!」

それが特別扱いじゃなかったら、何なんだよ。

「うちの子は優秀なんだから、今までの成績表みたいに、ちゃんと一番にしてもらわなきゃ困ります!」

「え、あの、ちょ、お母さん落ち着いて」

「私はちゃんと落ち着いて話してるでしょ!?」

「何処が?」

ボリボリとお菓子を食べながら聞くナジュ。

残念ながら、全然聞いてないみたいだけど。

面倒なモンペが来たもんだなぁ…。

本人は良いとして、息子であるユーマが可哀想だよ。

彼も彼なりに頑張ってるんだろうしな。

その結果、この成績なら、そこは怒るのではなく褒めるところだろう。

「と、当校は、国の魔導教育法と、イーニシュフェルト魔導学院の成績評定法に基づいて、厳正に評価を、」

「これの何処が厳正な評価よ!うちの子を馬鹿にして!」

「そ、そ、そんなことは。ユーマ君はまだ一年生ですし、これから少しずつ…」

「そんな悠長なこと言って、誤魔化そうとしたってそうは行かないわよ!ユーマの成績を直してくれないなら、私はここから動きませんから!」

王様かよ。

ユーマ母、一歩も譲る気なし。

だったら、もう一生そこにいれば?

あ、でも応接室が使えないから邪魔だな。

「…どうします?羽久さん。不法侵入で通報します?」

「いや…。学校でのトラブルに警察は巻き込みたくないから…」

警察沙汰になんかしたら、生徒を心配させるだけだ。

何とかユーマ母に、折れてもらわなければ。

これは長期戦になりそうだ、と。

思った、そのとき。

「…さっきから聞いていれば、勝手なことを」

我がイーニシュフェルト魔導学院唯一の女性教師。

そして、元ラミッドフルス魔導学院の鬼教官が。

メラメラと、怒りの炎を燃やしながら立ち上がった。