──────…僕はあのとき、どうしてああも冷静でいられたのか、分からない。

目の前にいるのは、僕が必死に守ろうとした村の人々を殺した悪鬼。

何度引き裂いても飽き足らない、同情の余地もない殺人鬼。

今度会ったときは、絶対に許さない。

村人の多くがそうされたように、首をはねて、晒してやろうと思っていた。

それなのに。

今その殺人鬼を前に、殺意どころか、憎しみの感情すら湧いてこなかった。

代わりに、僕はこう思った。

この人、こんな弱々しい人だったんだ、って。

あのときは、何処から見ても同情の余地もない、悪鬼羅刹にしか見えなかったけど。

こうして改めて、真っ直ぐに対峙して。

別に何も怖くなんかない。

子供みたいなものだ。

子供が、欲しい玩具をねだって、駄々をこねているのと同じ。

ただ死にたい死にたい、殺して欲しいって。

この人は人を殺しながら、ずっと泣きながら、自分を殺してくれと叫んでいたのだ。

…そういうことだったんだ…。

妙に納得してしまって、でも。

「…失われた命は、戻ってこないよ」

いくら君が後悔しようと、後悔していまいと。

謝ろうが、謝るまいが、そんなことは関係ない。

失われた命が、戻ってくる訳ではないのだ。