その日の、鍛錬の後。

「あぁ、疲れた。全く、族長も鬼だよなぁ?」

「…うん…」

あらゆる魔法を使えねば、イーニシュフェルトの里の賢者とは呼べぬ、とか何とか言われて。

散々しごかれた。

特に私。

そりゃあサボりたくもなるというものだ。

何故昨日、自分がサボったのか、その理由は分からないけど。

「あ、そうだ。◯◯さん家の子、見たか?もう歩けるようになったんだって。早いよなぁ」

「…」

「あの家の両親は魔力も多いし、あの子もきっと立派な賢者になるんだろうな。ま、お前ほどじゃないだろうけど…」

「…」

私は、幼馴染みの言葉に何も答えなかった。

思考が、ぐるぐると揺れているみたいだ。

「…シルナ。なぁシルナってば!聞いてるか?」

「え?あ…」

「何だよ、昨日からぼんやりして」

「…」

「お前変だぞ。何かあったのか?悩みでも」

悩み…がある訳じゃないんだけど。

「俺で良かったら聞くけど?」

「…」

「まぁ…話したくないなら、無理に聞かないけど…」

…違う。

話したくない訳じゃない。

ただ私は、この場所が…。

「…違うと思ったんだ」

「は?」

私は、幼馴染みに自分の胸のうちを吐露していた。

どうしても、感じずにはいられない違和感の正体が、知りたかった。

「違う?違うって…何が?」

「何がって…言われても…」

自分でも分からないのだ。

何かが違う。おかしい。それだけは分かる。

でも、何が違うのか、それが分からない。

「何なんだろう…。何かがおかしくて…」

「おかしい…?何が?」

「…それは…」

「…お前、本当にどうしたんだよ?」

…どうしたんだろうね。

自分でも分からない。

何かが間違ってるのは分かるのに…。それが何なのか分からない…。

「…私は、本当にここにいて良いんだろうか?」

「…シルナ、お前どうした?」

「私がここにいるのは…間違ってるような気がする…」

違和感の正体は、多分それなのだ。