失われた記憶が、私の前に甦ってきた。

まるで、「あのとき」のことが、何もなかったかのように。

「全く、何処で油を売ってるのかと思ったら…こんなところで昼寝とは」

「族長に怒られるぞ。『イーニシュフェルトの里の賢者たる者が、鍛練を怠ってはならぬ』って」

「あはは、今の似てる」

かつての私の仲間達。家族同然に暮らしてきた若い仲間達が。

とっくに死んだはずの仲間達が。

何故か、今、私の前に立って、そして笑っていた。

…生きてる、のか?

「どうした?まだ寝惚けてるのか」

いつまでも呆然としている私に、仲間の一人が声をかけた。

「変な夢でも見てたんだろ」

夢?

「そんなはず…。あなた達は死んだはずだ。神殺しの魔法で…」

「はぁ?神殺し?」

仲間の二人は、互いに顔を見合わせ。

そして、堪えきれないように笑い出した。

「馬鹿なこと言うなよ。俺達が死んだって?勝手に殺すな。この通り、ピンピンしてるっつーの」

「それに、神殺しの魔法って…。お前、あんな伝説、まだ信じてるのか?」

「…伝説…?」

…まさか。そんなはずない。

だって私は、私は…。

他ならぬこの手で…皆の命を犠牲にして…神殺しの魔法を…。

伝説なんかじゃない。本当に起きたことなのだ。

それなのに。

「ほら、さっさと里に帰るぞ。鍛錬サボって、族長に怒られても知らないからな」

茶化すように言われ、私は差し伸べられた手を、震えながら握った。

その手には、確かに温もりがあった。

幻…じゃ、ない…?

何もかもが信じられなかった。

この場所は。この世界は。

一体、何なんだ?